社内システムへ投資

料金設定ポリシーで種明かししたように、弊社では時間あたりに均等で掛かってくる人件費を抑えるために、なるべく無駄を省いていくことでコストを抑えるという手法を取り入れていることを紹介しました。

基本的な考え方は実働時間を減らして、人件費を掛けないことですが、これをさらに押し進めて業務に当たる人数を減らせる仕組みも取り入れています。

結論から言うと、ここに書いた手法を使うことで利益を出さないバックエンド業務に携わる人件費をシステム導入前と比較して 4割減らすことができています。(かつては現場で作業する作業員に対して、バックエンド業務にほぼ 1対1 の人員が必要でした。いまではほぼ半数の人員で業務できています)

弊社の創業は 1990年、平成2年です。平成初期の多くの零細企業がそうであったように、創業当時に弊社ではすべての管理をアナログで行っています。

弊社の場合、すべての案件はお得意様に結びついています。業務はお得意様単位で管理しています。

アナログ管理時代は、当時の多くの会社と同じように、紙の台帳を使って管理していました。その後、パソコンの導入とともにパソコン上で管理するようになってきますが、この時点では各担当者が Excel などで個別に表を作ってまとめている状態です。

初代システム

これだけでも紙の台帳と比べれば検索などができる分、だいぶ効率的ですが、まだシステムと呼べるようなものにはなっていません。余談ですが、弊社では 1995年末の本社移転を機に、社内LAN と簡易NAS を整備しました。2022年現在ではどこにでもある当たり前の仕組みですが、1995年当時のファイル共有はフロッピーを用いたものが一般的で、社内LAN はそれなりの規模の会社でしか使われていないものでした。当時は小規模な LAN では 10BASE-T という規格が使われていましたが、最先端の 100BASE-TX(FastEthernet)で導入しました。当時はまだ高額だったスイッチングハブ(廉価なリピータハブは、バカハブと呼んでいました)も導入しています。当時はクライアントで Windows 95 を使っていますが、LAN機能がオプション扱いだったほどです。

その後、社内システムの整備を進めていきます。当初は簡易的なデータベースです。社内LAN で共有しているので、社員誰もが閲覧できるようになりました。これはかなり業務の効率が上がります。業務の履歴をすべて入力してあるので、例えば電話で問い合わせがあったときにも、過去の履歴をその場で調べることができます。

初代システムは肥大化し、4,000件を超えるお得意様を管理するようになってきますが、拡張性に乏しく、この顧客システムとは別個で、あらゆる管理システムを必要としていました。互いに独立していて連携しないので、顧客から請求情報を拾い出すとか、そういう業務はできない状態です。

自社開発の基幹システム

増え続ける顧客と、バラバラに作られていた周辺の管理システムを統合し、「ハルキパネル」という基幹システムを自社開発しました。

「ハルキパネル」には社内の業務の履歴をすべて入れていきます。社内にあるもの、例えば電話とも連動するので、お得意様から電話が掛かってくると、担当者のパソコン画面上で過去の受発注、測定履歴などもすべて表示されるようになっています。このようなシステムを CTI と呼びますが、専門のコールセンターではない企業でここまでのシステムを導入している企業はまだ多くないと思います。

当初は経理関係は別システムのまま稼働していましたが、2020年から請求業務も「ハルキパネル」に統合します。古くからのお得意様だと、2020年から帳票のフォーマットが変わった(B5横から、A4縦になりました)ことを記憶しておられる方もいるかもしれません。

2020年以前のシステムは、Excel、Word、VBSCript を組み合わせたものでした。単純な帳票の印刷システムであって経理システムと言えるほど高度なことはできません。経営に必要な数字を拾い出すのも、すべて手作業で行う必要がありました。これを「ハルキパネル」に統合することで、経理に必要なあらゆる数字を瞬時に出せるようになります。これで、各案件ごとに必要となるコストを正確に洗い出すこともできるようになりました。

営業車ロケーションシステム


▲自社開発のカーロケシステム。営業車の現在地を把握できる

2021年には新たな試みとして、営業端末を導入しました。これも自社開発しています。移動の際に営業車の位置を GPS で測定し、リアルタイムに社内で共有します。各担当者同士は、互いに他の営業車がどのあたりまで動いているか把握できるので、柔軟に対応することができます。以前は、携帯電話で現在地を聞いて状況を把握していたので、緊急での対応などに時間を要していました。

この営業車ロケーションシステムは電話受付している本社でも確認していますので、お得意様からの急な要望(当日の時間変更など)があったときも、以前よりかなりスムーズに対応できるようになりました。

恥ずかしい話ですが、弊社は常に移動を伴う業務ですので、渋滞に捕まるなどの予測できない要素があって、お約束した時間に間に合わないことがあります。当然、お約束のあるお得意様からは「まだ来ないけどどうなってるのか」と本社にお問い合わせがありますので、以前だと個別に担当者に連絡をとって、折り返すという運用を行っていました。いまだとお問い合わせいただいた時点で営業車の位置を確認できるので、到着まで何分くらい掛かりそうか、その場でお答えできるようになりました。


▲移動履歴もとっているので、分単位でどこに居たか把握できる

営業車のすべての移動履歴も記録しています。この記録を集計することで、各案件ごとに掛かる移動時間を正確に算出できますし、無駄の少ない移動計画を作る上で資料として参照します。

弊社では作業日報がありません。履歴はシステムで管理しているので、わざわざ社員から申告してもらう必要がないからです。GPS のデータなので社員レベルで改ざんもできません。たかが日報かもしれませんが、それを書くために毎日10分ほどは必要でしょうから小さなレベルで人件費を削減できています。

新型コロナウイルスの流行後、弊社の従業員が検査で陽性となることがありました。移動履歴をとっているので、該当の従業員が訪問した先も把握できています。

基幹システムの開発コストとメリット

基幹システムを開発すること自体は多大なコストがかかります。何千万円という単位ですので、弊社のような零細企業だとなかなか導入に踏み切れないという会社も少なくありません。しかし、業務が効率化できるので、結果的には人件費を抑えることができます。例えば、5人必要な業務が 4人でもこなせるようになります。1人に掛かる人件費は以前も紹介した通り、いまの日本だと 1日あたり約4万円、年間で 800万円です。1人分の人件費が減らせるなら、数年でシステムの開発費を回収し、その後はそのままコストダウンになります。

まだみぬ基幹システムを開発するといっても、モヤッとしてイメージが沸かず、そして何千万円という単位での開発費が掛かるという見積もりをみたら導入に二の足を踏むと思います。しかし利益を出している大企業をみれば必ずといって良いほどシステムをちゃんと整備しています。システムを作ることは、業務の自動化の一番基本となるインフラです。ここに投資せずしてコストダウンはできませんから、長期的な視点で計算して導入します。保守や改修を考えると、5~7年くらいで元がとれる(減らせる人件費 x 稼働年数)くらいのコスト感でよいと思います。(弊社の「ハルキパネル」を外注で開発した場合、おおよそ 3~4,000万円ほど、カーロケシステムで 5~800万円ほど掛かると見込んでいます)

システムというと実態がないものに思えてイメージが湧かないと思いますので、製造業におけるロボットの導入だと考えるとわかりやすいでしょう。むかしは工員の頭数を揃えて作っていたものを、ロボットに置き換えることで、ロボットの導入にはコストが掛かるものの工員に掛かる人件費より安くなります。日本の製造業ではどれだけロボット化できるかが、コストダウンのキモになっています。サービス業でも同じで、システム化できる範囲を広げられると、人件費を抑えられるので結果的にはコストダウンになります。

クラウドERP の活用

自社開発まで必要ないという場合、SAP のような汎用業務システムの導入が費用対効果が最も高いと思います。多くの企業で行う業務に必要な機能をパッケイジ化してあるので、パズルのように組み立てるだけで開発ができます。利用料もクラウド方式なので、稼働した分だけで負担すれば良いのでコスト感もわかりやすいと思います。

SAP ERP の利用料は 1社員あたり月額約2万円です。年間で 24万円と単純に計算できます。システムへの投資は売上の 1.5~2.5% くらいが適正なので、これが自社の売上から計算した数値の中に収まっているのであれば、導入の効果があると考えて良いでしょう。実態は零細企業でシステムへの投資が 1.1~1.3% なので、現状では低すぎます。これが儲かる業種(=金融業など)では 10% 近くになります

コストの掛かる、消込業務

実はまだ、自社システムによるコストダウンは 100% 完成していません。主に、経理関係が足かせになっています。

弊社ではお支払いにずっと、銀行振込をお願いしてきました。銀行振込では、着金側(弊社)は「振込人名」と「金額」という情報しか得られません。

どの請求に対する入金なのかも紐づいていませんし、「振込人名」もカタカナでしか送られてこないので、これをどの請求に紐づいたものかを特定していく、「消込」(けしこみ。ただしくは入金消込)という業務が必要になってきます。

この消込業務は、日本中の企業が悩まされる問題になっているのですが、解決が進んでいません。

特に弊社の場合は、「請求金額」が同じ額ばかりなので、金額を使った絞り込みができません。会社同士の取引であれば、「振込人名」さえわかれば特定できるのですが、弊社のお得意様だと「屋号」「法人名」「個人名」とあらゆる「振込人名」が使われるので、これを特定する作業を行っていきます。

例えば、「なごや春木クリニック」というお得意様があったとします。振込人名として「ナゴヤハルキクリニツク」と送っていただければすぐに特定できるので問題ありません。しかし、看板には書いてないものの、実は法人登記されていてその法人名が「医療法人春木会」だったとします。このお得意様からの送金は、振込人名として「イ)ハルキカイ」と表示されます。看板に書かれていない法人名は外部から知る由がないので、こうなるとどのお得意様からの入金かはわからなくなってしまいます。また医療法人は、○○会というパターンが多く、同音語の医療法人名がたくさんあります。そして個人で開業されていると、院長先生の個人名で送金というパターンもあります。これも弊社内で 100% 把握できてるわけではないので、特定に時間を要します。

このようなケースでは取引先の銀行を介して、送金元の銀行に問い合わせを送り、送金元の銀行から口座名義人に(情報を開示してよいかという確認の)連絡がいき、折り返して弊社まで情報が返ってきます。間に何人も介しているので、回答まで丸1日を必要とすることも珍しくありません。すべて電話を使った対応なので、かなりの時間を要します。以上が、日本中の零細企業で重荷になっている、消込業務の流れです。

クレジットカード決済の導入

2020年からクレジットカード決済でのお支払いに対応しました。クレジットカード決済の場合は、カード会社からどの請求に対する送金かを紐づけた情報が送られてきます。よって、これまで多大な時間を要していた消込業務が不要になります。実を言うと、弊社はクレジットカード決済のために加盟店手数料として 1件あたり 515~1,400円ほどを負担しています。しかし、消込業務が不要になるコストメリットは大変大きく、弊社としては手数料負担があってもクレジットカード決済をご利用いただきたいと考えています。お得意様においてもクレジットカードでお支払いいただけば、支払いを少し遅らせることができますし、ポイント還元もあるので損することはまったくありません。

クレジットカード決済の導入後、かなり多くのお得意様にお使いいただいています。ただ、どうしてもクレジットカードでの仕入れというのはすべてのお得意様で使われているわけではなく、銀行振込しかご対応頂けないことも多いのが現状です。

消込専用口座の導入(予定)

こうした、銀行振込しか使えないお支払いでも、消込業務を軽減する仕組みがあります。バーチャル口座、仮想口座などと呼ばれる仕組みで、お客様ごとに専用の口座番号を用意してそちらへ送金してもらうことで、送金元を特定する仕組みです。

2000年ころから、大企業の請求業務で使われるようになりました。証券会社や保険会社の送金先の口座で、三菱UFJ銀行振込第一支店、三井住友銀行東京第一支店、といった実体のない店舗名の口座を指定されることがあると思います。これが、いわゆる消込口座です。

消込口座では口座番号に全顧客で異なる番号を割り振っていますので、着金しただけで送金元がわかります。

こうした消込口座は、1,000口座単位で契約するのですが、かつては 1,000口座あたりで月額4~5万円という利用料がかかっていたので、弊社のような顧客数(約8,000件)の割に取引件数(各顧客ごとに年間で 2回)の少ない事業だと、口座維持費がかさみ、コストに反映させると 1案件あたり 2,000円を超えるため導入に二の足を踏んでいました。このコスト感は現在の消込業務に掛かっているコストとあまり変わりません。

しかし、住友銀行(現三井住友銀行)がもっていた消込口座の特許(振込処理システム、特許3029421)が切れた(2018年10月権利消滅)ことで、各銀行が参入して利用料が下がり、いまでは現実的な手数料で使える環境が整ってきました。

いま弊社でも、消込口座を導入するための開発を進めています。試算ではクレジットカード決済で負担している手数料をしたまわるコスト(1案件あたり、1,000円以下)で使えそうなので、早期の導入を目指しています。


Dr.Net Survey